たくさんあるレシートの束を見るとため息が出てしまう。正直、経理の仕事はやったことがない。大学も文学部だったし。

前は出納帳をつけていた人がこの店で働いてたのかな?

てことは、あの紙に書いてあった『穂香』という人?

離婚したから、やってくれる人がいないのかな……。

そこまで考えて、ぜんぶ私の想像だと気づいた。こうして思考が突っ走るのは昔からの悪いクセだ。

「それにしてもこんなにレシートをためるなんて……」

恨めしそうにそれを眺めていると、

「あら。ひとりなん?」

扉からひょっこり顔を出したのは、園子さんだった。

「いらっしゃいませ」

立ち上がって挨拶をすると、

「休憩中やろ。そのままでええで」

ピンクのワンピースを揺らしながら園子さんはドカドカと入ってきた。だいたい昼ごろに訪れる園子さんも皆勤賞クラスの常連さんだ。

年齢は五十歳を超えたくらいだろうか。厚化粧にきつくあてたパーマ、そしてどこで売っているのか疑問な派手な服装、極めつけはその関西弁……。

まさしくテレビでたまに見かける関西のおばちゃんそのものだ。

もっとも本人は、『これは奈良弁やないで、大阪弁や』と言ってはいるが、その違いがよくわからない私にとっては、関西に住んでいることを実感させる人物だ。

「雄ちゃんは買い物?」

カウンターの中から湯呑を取って座った園子さんは、勝手にお茶を入れつつ尋ねた。

「はい。園子さん、今日はいつもより早いんですね」

「やめてや。園子さんって呼ばないでって頼んだやん」

「はぁ、でも……」

目上の人をそう呼ぶのは毎度抵抗を感じてしまうわけで。

「年を感じさせんといてや。園子ちゃん、でええねんって」

ガハハと豪快に笑うので、

「はぁ」

曖昧にうなずきながら「失礼します」と少し冷め出しているごはんの続きを食べることにした。

園子ちゃんはジュースのようにお茶を飲んでは「あー生き返る」とか「おいしいなぁ」とか言っていたが、やがて、

「あ、そうや。今日いつもより早く来た理由を聞かれてたわ」

と、今さらながら思い出した様子。

「早く目が覚めたんですか?」

「そんなとこ。最近はあんまりお客さん来ないから店も早く閉めるやろ。お金はないけど睡眠時間だけはしっかりとれるねん」

あっけらかんと言った。