「久人さん!」


私は駆け寄り、膝をついて彼の顔をのぞき込んだ。

顔色はいたって普通だ。危ない感じはしない。ただ度外れに飲みすぎただけだ。

いったいどうしたっていうんだろう。こんな姿を見せる人じゃないのに。


「そのまま座っていてください。お水を持ってきます」

「いらない」

「そういうわけには…」


立ち上がりかけた私の手首を、彼がつかんだ。手のひらはぎょっとするほど熱く、力は容赦なく、引っ張られてあえなく私は廊下に倒れ込んだ。

完全に無防備だったため、腰と肘をしたたか打ち、思わずうめく。


「いた…」

「いらないって言ってんじゃん」

「でも、アルコールは水を飲まないと」


分解、と言おうとしたところに、なにか邪魔が入って、唇がうまく動かなかった。

久人さんの唇が、押しつけられているのだった。

それはキスというより、言葉を封じるとか、奪うとかいう表現のほうが合う、荒っぽく一方的な行為だった。

私は、這いつくばった格好から起き上がろうとしている体勢だった。強く肩を押され、肘が崩れる。肩甲骨が廊下にぶつかり、鈍い音を立てた。

久人さんは、私の左肩を右手で押さえつけたまま、妙に据わった目つきで私を見下ろした。どこも見ていないような、うつろな眼差し。


「久人、さん…」


彼の視線が、私の身体の上をゆっくり移動する。

私はとろみのある生地のTシャツと、コットンパンツを身に着けていた。視線が、ちょうど私のおへそのあたりで止まる。彼の手がそこへ伸びたとき、私は反射的に身体をよじって抵抗した。


「久人さん!」


私にまたがり、彼はあっさり私の動きを封じた。肩は押さえつけられたままで、まったく身体を起こせない。