「ね、結婚しようよ、俺たち」

「は…」

「うまくいくかなんてわからないけどさ、どんな相手だろうが、そんなのわからないじゃない?」


無責任な言葉。だけど私の心には、不思議にすとんと収まって、とても現実的なものに感じられた。

私もそう思います。会ったばかりだろうが十年の付き合いだろうが、この先うまくいくかなんて、誰にもわからない。言い換えれば、すべては本人たち次第。


「あ、もっとあれこれ試してから決めたい? それでもいいけど」


片手で頭を支えるようにして、わずかに顔を寄せてくる。少し時間がかかってから、言われた意味を理解した私は、不本意ながら赤くなった。


「そんなこと、考えてません」

「時間をかけすぎずにいてくれるなら、試してくれていいよ。でもあんまり意味ないと思う。満足するに決まってるから。時間の無駄じゃないかな」


すごい自信…。


「ご自身が私に不満を持つかもとは、考えないんですか?」

「女の子は、される側だからなあ。感度がいまいちなら開発するまでだし、乱れるタイプならそれはそれで楽しめるし。まあそんな感じには見えないけど」

「なんのお話ですか」

「夫婦の相性の話だよ。自分で聞いたんでしょ」

「もっと包括的な、暮らしの部分についてお聞きしたんです!」


真っ赤になった私を「あ、そうなんだ?」としらばっくれてからかい、笑う。

もう、なんなのこの人。無礼で勝手で人が悪くて、なのにどうしても憎めない。この腹立たしいほどの正直さは、いっそ清々しくて、なぜか不快じゃない。


「どう、結婚してくれる?」


久人さんが微笑んで、右手を差し出した。

私はちょっと考え、同じように右手を出した。その手を取られ、私たちはカウンターテーブルの上で握手をした。