なんだろう。

中学高校と新体操部で、それは楽しかった。幼い頃から習っていたバレエも活かせたし、仲間もできた。けれど、どれかの部活に入ることが強制だったから選んだまでで、好きでやったかと言われると違う。

大学のときはいろいろなボランティアをした。けれどそれが必要と思ったからしたわけであって、好きでやったという響きはなにか違う。

ピアノもバイオリンも長く習っていたし楽しかった。けれど物心つく前から習っていたので、好きでやったかと言われると…。

答えに詰まった私の前に、前菜の小鉢が置かれた。

白和え、なます、黄味漬。


「きれい」

「仕事は?」

「メーカーの開発機関で、秘書兼庶務のようなことをさせてもらっています」

「辞めてって言ったら辞められる?」


これにはむっとした。

口利きしてやるという親族を退け、就職活動をして自力で獲得した職だ。


「辞めたいと思ったら辞めるでしょう。ですが辞めてと言われて辞めたくなるかはお約束できません」


なにがおかしいのか、またくすくす笑っている。失礼な人、ほんと失礼な人。


「久人さんは、なにがお好きですか」

「今は仕事。学生時代はモトクロスにハマってた」

「モトクロス…」

「ダートコースを、バイクで走るレース」

「じゃあ、お休みの日は、バイクに乗ったり?」

「休みなんてないなあ。とりあえず時間があれば仕事してるよ」

「…休んでくださいと言ったら、休んでくださいます?」


頬杖をついた顔が、ぱっとこちらを見た。

軽い驚きに見開かれていた目が、やがて楽しげに笑う。