…久人さんって、どんな人?

少し前までの私なら、すんなり答えていただろう。

明るいです。優しいです。いつも自信たっぷりで、なんでもできて、仕事には厳しいですが、冗談も好きで…。

それが、本当に彼のすべて?

どうしても言葉が出てこない私は、照れているのだと思われたらしい。


「仲がいいと、かえって説明が難しいかもですね」


そう解釈してくれた彼女に、笑い返すことしかできなかった。




『今日は遅くなる。ごはんもいらないから、先に寝てて』

「はい。お気をつけて」


夕方、ちょうど会社を出ようとしていたところに久人さんから電話があった。

忙しいらしく、用件だけの会話で、慌ただしく切れた。

私はあくまでこのファームの秘書なので、久人さんがほかの会社でどんな仕事をしているのか、まったくわからない。

一日に一、二度、スケジュール調整の連絡が来るくらい。こちらの仕事に影響のない変更が、私の預かり知らないところで山ほど行われているに違いない。

ひざにバッグを抱え、ふうと息をついた。夕食の準備をしなくていいとなると、急に時間が余る。ひとりで食べて帰ろうか。

ドアがノックされた。慌ただしい音だったので、続き部屋から飛び出したら、同時に次原さんが飛び込んできた。


「社員から問い合わせが来たりしていませんか?」

「はいっ?」


バッグを握りしめたまま、私は目を丸くした。次原さんはドアを振り返り、髪をかき上げて、ふうっと息をつく。いつも冷静な彼の、こんな様子は珍しい。


「あの、どうかされましたか?」

「高塚さんがこの会社を離れるという話が、漏れてしまったんですよ」

「久人さんが、離れる?」