リビングに戻ると、久人さんはソファで横になり、うとうとしていた。長い脚を片方の肘掛けにかけて、片腕を枕に目を閉じている。


「久人さん…」

「ん」


そっと声をかけると、すぐに目を覚ました。


「夕食、作ったら入ります?」

「んー…つまみで腹いっぱいだから、今日はもういいかな」

「お風呂は…」

「寝ちゃいそうだから、やめとく」


肘掛けに頭を載せて、さかさまに私を見上げ、にこっとする。

話が終わったのに私が立ち去らないのを訝ったのか、やがて身体を起こした。


「どうしたの?」

「あの、これが落ちていて、見てしまったんです。すみません」


戸籍謄本を見せると、「ああ」と目を見開く。


「どこやったかなと思ってた。もう使わないから、捨てといてくれる?」

「…内容について、お聞きしてもいいですか?」


私は一歩、近づいた。久人さんはきょとんと、ソファの上から見上げてくる。


「内容?」

「お生まれとか、そういえば伺ったことがないなと思ったんです…それは、その」


"養子"という言葉が、当人をどの程度傷つけるものなのかわからず、なかなか口にできなかった。


「あの、久人さんと、お義父さまたちは…」

「あっ、その話か」


口ごもる私と対照的に、久人さんはあっさり話を引き取った。