久人さんは、考えたことがなかったのだ。

彼らの息子でいるために跡を継ぐ。それ以外の人生を。


「どうしよう…」

「ゆっくり考えたらいいと思います。なんなら予定どおり商社に入ってもいいと、お義父さまもおっしゃっていたじゃないですか」

「もう、頭が混乱してさ…」


顔をしかめ、頭をぱりぱりと掻いている。心底途方に暮れているようだ。

その手が、ふいに止まった。


「あれ?」

「どうしました?」

「なんか、身体が…」


ずし、と体重がかかる。あきらかに様子がおかしいので、私は慌てた。


「大丈夫ですか、久人さん」


なにか言っているみたいだけれど、聞こえない。


「久人さん!」


彼はそのままずるずると、ソファに倒れ込んだ。




「はい、フルーツヨーグルトです。ミントの葉も添えました」

「どうせ味なんかわからないから、いちいち凝らなくていいよ」


不機嫌な顔が、寝室のベッドから見上げてくる。私は気にせず、彼の口元にスプーンを持っていった。


「どうぞ、あーんです」

「なんでそんな機嫌いいの?」


そうやってふくれている久人さんがかわいいからです。

とは言わず、ふた口目を食べさせる。