とりあえず久人さんの中では、回避したいなにかが明確にイメージされていることはわかった。私は彼に逆らう気もないので、従順にうなずいた。


「久人さんも、約束してくださいね」

「うん?」

「私、久人さんだけです。こういうことをするのも、一緒にいるのも、好きだからです。結婚したからじゃないです。そのこと、信じてください」


久人さんの、きれいな形の目が、ぱちりと一度まばたきをする。

そして柔らかく微笑んで、ちょっと困った顔で、「うん」と彼はうなずいた。


「信じられると思う」


ぎゅっと抱き合ってキスをした。

ふわふわのベッドと、久人さんの身体の間で押しつぶされる幸せ。


「桃、あったかい」


久人さんはそう言って、私のことを片時も離そうとせず。

一緒にお風呂に入ろうか、なんて言っておきながら、結局そのまま、健やかな寝息をたてて眠ってしまった。


* * *


「起こしてよ、桃ー」


翌朝、メイクする私のうしろで、久人さんがバタバタと出勤の準備をしている。


「だって、いつもの時間にはまだあったので…」

「今日は早く出るんだって」

「聞いてないです」

「言ってないけどさ!」


えっ、どうしろと?

あらかた終えたところで、「はい次、俺!」と家具かなにかみたいに持ち上げられ、洗面台の前からどかされた。といってももう髭もそり終えているから、髪のセットと歯磨きだけだ。

私はダイニングに行き、久人さんが放り出したらしき上着と鞄を拾い上げて戻り、廊下で待機した。すぐに彼が洗面所から飛び出してくる。


「はい、どうぞ」

「ありがと」


上着を着せかけ、鞄を渡す。