「俺、最悪な奴だよ」
「私の夫です。そんな人が、そんなに最悪なわけありません」
久人さんの震えが、だんだんとおさまってくる。彼が頭を私の肩に載せた。私は、すっきりした黒い髪をなでた。
力ない苦笑が聞こえる。
「すごい自信だね…」
私はきっぱりと返事をした。
「これが、愛です」
思わずといった感じに、久人さんがぱっと顔を上げ、私たちは正面から顔を見合わせるはめになった。
ぽかんとしていた彼の表情が、微笑みに変わる。
抱き合ってキスをした。お互いの身体に、しっかりと腕を回して、唇を重ねて、髪をなでて、背中を抱き寄せる。
信じてね、久人さん。
あなたは愛されています。
しばらく、私たちはぎゅっと抱き合っていた。私の存在を確かめるみたいに、頭や首や背中を、ひっきりなしになでていた久人さんの手が、あるとき止まった。
考え事でもしているような、変な無言の間。
「あのさ、桃」
「はい」
「あの、もしよければなんだけど、嫌なら嫌って言ってくれればいいんだけど」
はあ、と抱きしめられたまま、私は答えた。
「このまま抱いていい?」
一瞬、ちょっとよく意味がわからなかった。
久人さんて直球だなあ。私の経験則では、こういうストレートさは自信の表れで、ここでNOと言われたところで、自分が全否定されたわけじゃない、と正しく受け止めることのできる人が発揮するものなんだけれど。
どうしてこれが言えて、ご両親の愛を信じられないのか。
これが樹生さんも言っていた"バランス"の悪さか。
返事をするのも忘れて考えにふける私に、久人さんは今度は弁明を始めた。
「俺もけっこう我慢したから、限界っていうか、いや、俺の限界っていうと語弊があるんだけど、どっちかっていったら、変わったのは桃のほうでね」
「私?」
「私の夫です。そんな人が、そんなに最悪なわけありません」
久人さんの震えが、だんだんとおさまってくる。彼が頭を私の肩に載せた。私は、すっきりした黒い髪をなでた。
力ない苦笑が聞こえる。
「すごい自信だね…」
私はきっぱりと返事をした。
「これが、愛です」
思わずといった感じに、久人さんがぱっと顔を上げ、私たちは正面から顔を見合わせるはめになった。
ぽかんとしていた彼の表情が、微笑みに変わる。
抱き合ってキスをした。お互いの身体に、しっかりと腕を回して、唇を重ねて、髪をなでて、背中を抱き寄せる。
信じてね、久人さん。
あなたは愛されています。
しばらく、私たちはぎゅっと抱き合っていた。私の存在を確かめるみたいに、頭や首や背中を、ひっきりなしになでていた久人さんの手が、あるとき止まった。
考え事でもしているような、変な無言の間。
「あのさ、桃」
「はい」
「あの、もしよければなんだけど、嫌なら嫌って言ってくれればいいんだけど」
はあ、と抱きしめられたまま、私は答えた。
「このまま抱いていい?」
一瞬、ちょっとよく意味がわからなかった。
久人さんて直球だなあ。私の経験則では、こういうストレートさは自信の表れで、ここでNOと言われたところで、自分が全否定されたわけじゃない、と正しく受け止めることのできる人が発揮するものなんだけれど。
どうしてこれが言えて、ご両親の愛を信じられないのか。
これが樹生さんも言っていた"バランス"の悪さか。
返事をするのも忘れて考えにふける私に、久人さんは今度は弁明を始めた。
「俺もけっこう我慢したから、限界っていうか、いや、俺の限界っていうと語弊があるんだけど、どっちかっていったら、変わったのは桃のほうでね」
「私?」