かさかさと、かすかな音がした。手紙を握る久人さんの手が、震えているのだった。


「…俺ね、桃を最初に気に入ったの、ご両親がもういないってところだったんだ。これなら、よけいなものを見なくて済むかなと思った。家族ドラマとかさ、俺、ほんと苦手で。嫌いじゃないんだけど、全然理解できなくて、困る…」


ぽつぽつと、自分につぶやくみたいに、小さな声で彼が言う。震えの止まらない手を握ったら、「だけどね」とようやく私の目を見てくれた。


「桃が、ご両親の愛情をいっぱいに浴びて、それを全部信じて、動力に変えて生きてる子なんだってわかったとき」


ふいに、彼の声が揺れた。


「なんて、俺と違うんだろうって」


熱い手が、私の手を握り返してくる。私も夢中でそれを握った。


「まぶしくて、憧れて…」

「久人さん…」


久人さんはゆっくり身体を折り、繋いだ手に額をくっつけて、祈るような格好を取った。両腕の腕に顔を埋めて、きつく私の手を握る。


「こんな子がそばにいてくれたら、俺も、なにか変わるかもって、思った」


自由なほうの手で、彼を力いっぱい抱きしめた。

変わりたかったんですね、久人さん。

自分になにか足りないって、気づいていて、焦っていたんですね。

だけど餓えた自分に、自分でも目をそむけることしかできなくて。一番欲しいものを、欲しいと求める勇気が、どうしても持てなくて。

長い間、ひとりきりであがいていた、孤独な久人さん。

私の腕の中で、背中を震わせて、きっと泣いている。いつも頼もしい大きな背中を、今日は守ってあげたいと思った。

「私、ずっと一緒にいますよ」

自分と違う、と突き放さずにいてくれて、ありがとう。

それだけで、あなたはちゃんと、勇気のある人だとわかります。どうかそのことに、自分で気づいて。