「ごめんね、ありがと…」


しがみついて、「大丈夫です」と伝えた。

こんなときなのに、私にまず、謝ってくれるんですね。

聞きたいことはたくさんあるけれど、今は我慢します、久人さん。

あなたが、帰る場所にここを選んでくれただけで、十分です。

お帰りなさい。




深く眠っている、久人さんの寝顔を見つめた。

家に上がるなり、『頭使いすぎた…』と急激な眠気を訴えた彼は、寝室まで行くのもやっと、服を脱ぐのもままならないほどで、最後は倒れ込むようにしてベッドに入った。

そういえば、久人さんの寝顔をここまでじっくり眺めたことって、ない。

目を閉じていると、印象が幼くなるな、と思いながら、ベッドの縁に腰をかけて、久人さんの髪を梳く。枕に半分埋まった顔が、その手を追いかけるみたいに、わずかに仰向いた。

もう一方の手で、樹生さんにメッセージを打った。


【久人さん、帰ってらっしゃいました。疲れたようで、すぐ眠りました】


瞬時に既読になり、すぐ返信が来る。


【よかった、ありがとう。早めに顔を見ておきたいから、俺も明日、そっちの会社に行くね】


わかりました、と返事を打ってから、少し考え、つけ足した。


【お義父さまとお義母さまにお会いする機会を作っていただけませんか?】


これにも、迷いを感じさせないスピードで返事をくれる。


【そうだね、任せて。また連絡するよ】


もう寝なさい、と続けてメッセージが来たので、【はい、おやすみなさい】と返した。返事が来ないことを確認し、また久人さんの様子を見る。

いつの間にか、彼は私の左手を握っていた。顔の前で、祈るように私の手を取って、身体を丸めて眠っている。

普段はもっと、のびのびと寝ているのに。私に片腕を貸して、ときにはそのまま抱きしめるみたいに腕を回して、ときには仰向けで。

目が覚めたとき、そういう久人さんが隣に寝そべっていると、ひとりじゃないんだと感じて、幸せになる。