私はきっと、明日もあなたに逢いにいく


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高校三年の冬。

センター試験を控えた僕は田舎のおばあちゃんちに引越しをした。

大学はばあちゃんちの近くで受けることにした。

ここは母さんが眠っている町だ。

そして僕が勇気をもらえる町だ。

ここには、僕が一番大切に思っているハナが住んでいる町だ。

僕はこの町が嫌いじゃない。

嫌いじゃないけどどこか閉鎖的でもの寂しいのが少しきになる。

母さんの眠る町だから。

僕が勇気がもらえる町だから。

大切なハナが住む町だから。

僕はここで学んで、この町をもう少し開放的で温かい町にしたいと思った。

叔母さんも叔父さんもそんな僕の思いを尊重してくれた。

田舎のばあちゃんも僕が一緒に住むことを快諾してくれた。

僕は色んな人の助けを受け、ハナの近くまで来ることができた。

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引越しをした次の日。

僕はハナと出会った思い出の場所へと向かった。

嬉しいことに、そこにはハナがいた。

あの日のように、たった一人上を見上げて突っ立ってるハナがそこにはいた。


私は話し終えた朔の顔を上手く見ることができなかった。

合わせる顔がないとか、涙が邪魔でとかじゃない。

丸く切り取られた空から落ちる月の光が朔の顔をあまりに明るく照らすもんだから、朔の白い肌に光が反射して見えなくなっているのだ。

そんな朔の姿を眺めながら思う。

朔には私の顔が見えているのだろうか?

それすらも私の方からは確認できない。

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明るすぎる月を、あの日のハナがしていたみたいに見上げてから地上へと視線を下ろす。

下ろした先には一瞬あの日のハナが立っているように見えた。

僕はその影に語りかけるように呟く。

「帰ろうか」

そこからの帰りはあっという間だった。

苔の生えた石段を登って。

くすんだ赤の鳥居を潜って。

長く急な石段を下って。

大通り沿いの道を、たまに通るトラックとだけすれ違って。

曲がって。

止まって。

進んで。

そうやってゆったり歩いてから目の前に立ちそびえる大きな建物を見上げて止まる。

それはこの町では一二を争う大きさの建物。

薄グリーンの壁。

そこに備えられた窓は数えきれない。

入り口は住宅にはあり得ないほど大きく設計されている。

駐車場にはいまは数台の車しか止められていない。

誰が手入れしているのか、門の横には綺麗に刈りそろえられた植木があって。

僕はその横に立っている。

“公益財団法人桐生総合病院 ”

反対側には堂々とした文字で施設の名前が書かれている。

ここが僕が最後にと決めた場所だった。

面会の時間はとっくに過ぎている。

だけど事前に許可をもらっている僕は迷うことなく院内へと向かう。

エレベーターで二階に寄って、ナースステーションで書類整理をしている看護師さんに挨拶をする。

そのまま廊下を進んで奥の突き当たり。

この時間には月の明かりが一番に差し込むその部屋へと訪問した。

部屋の中はやっぱり月明かりで明るかった。

少しだけ空いた窓の外からは他の部屋から漏れ出すテレビやラジオの音が入り込んで来ている。

きっとこの部屋だけが特殊なんだろう。

テレビでよく見るような沢山の管が繋がった機械も苦しそうに呻く声もない。

テレビやラジオと言った娯楽も電源が落とされたままだ。

ここには何もない。

音も、色も、何もない。

あるのは綺麗にシワの伸びたベッド。

その脇には唯一病院らしい点滴があって。

その先には静かに眠り続ける女の子がいる。

「寝てるね?」

「気持ち良さそうだよね」

声に振り返るとバイタルチェックへきた担当看護師さんが立っていた。

「今日は遅いから来ないのかと思ってたわ」

「来ないわけないじゃないですか」

「ふふっ。だって、華ちゃん」