『夏木さんが見てる(照)』








古典の時間。

雑学大好きな三木先生は、いつもはっと驚くような話をしてくれる。


「この歌の真意を理解するには、平安時代の人々が夢のことをどう考えていたのかを知る必要があります」


先生がそう言って、黒板に『夢についての考え方』と書いた瞬間。

俺の真後ろで、かりかりとペンを走らせる音がした。


ーーー夏木さん。

どうやら、メモをとることにしたらしい。


前に座っているので、目で見ているわけじゃないけど。


夏木さんは、あんまりノートをとるのは好きじゃないみたいだ。

みんなが一生懸命ノートをとっているときに、夏木さんだけが動きを止めていることがよくある。

そのことは、音というか、気配で、なんとなく分かるのだ。


授業中、俺はいつも全神経を背中に集めて、夏木さんの気配をうかがっている。


「というわけで、この歌の意味は、自分の夢に好きな人が出てきたから、その人も自分のことを想ってくれていて、それで夢の中まで会いに来てくれたんだって喜んでいるんですね。
それまでは、夢なんてそんなに信じていなかったけど、………好きな人に夢で会えることを楽しみに待つようになった………そういう歌なんです」


先生はそう言って、夢の話を締めくくった。


俺は頬杖をついて窓の外を見る。


今日は天気がいい。

真っ青な空が窓枠いっぱいに広がっている。

ぷかぷか浮かんでいる真っ白な雲が、ゆったりと流れていく。