ーーー今井くんの声だった。

大人っぽくて、いつも落ち着いていて、声を荒げたりすることのない今井くんが、初めて大声を上げたのだ。


みんなが驚いたように今井くんを見た。

あたしもちらりと顔を上げて、視界の端に今井くんの姿を捉える。


さっきまで気まずそうに顔を背けていた今井くんが、今はまっすぐ前を見て、みんなの視線を堂々と受け止めていた。


「あら今井くん、偉い!、いいこと言った! そうよ大石くん、服部くん、授業の邪魔しないでね」


先生は大石くんと服部くんを睨みつける素振りをして、百人一首の説明に戻って行った。

みんな、熱が引いたようにノートをとりはじめる。


あたしはもう一度、今井くんのほうに視線を向けた。


ーーーあ。

目が合った。


その瞬間、今井くんはぱっと目を逸らした。


次の授業は世界史で、中世ヨーロッパの文化の話だったから、また「神」が出てきた。


そのときも男子たちはちらちらと目配せをして、意味ありげな視線を今井くんとあたしに送ってきたけど。

先生が厳しい先生だったから、私語になるようなことはなくて、ひと安心した。


その次は現代文で、「人間は全知全能の神に憧れて……」みたいな文脈で、またまた「神」の登場。


日常生活に、意外と「神」という言葉が溢れているのだと、あたしは今日はじめて知った。


昼休みになって、あたしは仲良しの美香ちゃん、沙織ちゃんとお弁当を食べる。

もちろん、話題は今井くんのことになった。