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「あ……わ、わたし……」
あの時、微かに聞こえていた誰かの声。
薄れていく意識の中で、ほんの僅かに見えたのは……。
溢れ出る涙に、堪らず両手で顔を覆った。
「奈々?ちょっと、大丈夫?どこか痛いの?」
私の手を握り、微笑みながら彼は言ったんだ。
『大丈夫だから』って。
『樋口、大丈夫だから』確かにそう言った。
あれは……幸野君だった。
「お母さん……幸野君、幸野君は?今どこにいるの?無事なんだよね!?」
言いようのない恐怖と不安が体中を駆け巡り、体がガタガタと震える。
「落ち着いて、奈々!」
お母さんが私の肩を抱き、優しく背中を擦った。
「ねぇお母さん、幸野君に会いたい!」
「奈々……」
「彼がいなかったら、私は……」
現実を受け止めるのをやめた私は、きっとそのまま目を覚ますことはなかった。
幸野君が、大丈夫だと言って手を握ってくれたから。
笑ってくれたから。
「会いたい……会いたい……」
短い旅の終わりに……頑張れって、幸野君が背中を押してくれたから。
「お母さん!ねぇお母さん!」
「ちゃんと話すから、落ち着いて。幸野君は……」