香乃と別れて家に帰った私は、早速ネットで手袋の編み方を検索した。


「ん~、やっぱり分かりにくいな。香乃は本も買ったって言ってたっけ」


スマホの小さい画面で確認しながら編み物をするっていうのはちょっと無理があるかも。私も本がないと難しいな。

そう思った私は、家に帰って来たばかりだというのに、またコートを羽織って外に出た。


駅前の本屋なら大きいし、編み物の本も売ってるだろう。


自転車にまたがって本屋に向かい、趣味のコーナーにある沢山の編み物の本の中からなるべく手袋の編み方が分かりやすく書かれている本を探す。


毛糸と編み棒があっても、説明を理解できなかったら編めないし。っていうか、種類多すぎて分かんないよ。


ーーピコン


[今からちょっと土手走ってくる。今日部活なかったから体動かしたいし。
奈々はちゃんと勉強しろよー]


修司からのLINEだった。


「いやいや、修司も勉強しなさいよ」


画面に向かって突っ込んだ私は、緩んでしまう頬を抑えながら返信し、ようやく決めた一冊を購入した。


[修司も勉強しなよ!って言っても走りに行くんだろうけどね]



私も一緒に、走りたいな。

夜になると急に冷え込んでくるけど、修司の隣で土手を走れたら、きっと心も体もポカポカに温まる。


実際に走ったことがなくたって、想像しただけで分かってしまうんだ。


私はドキドキしながら修司の隣を走って、いつものように平然を装ってくだらない話をしたり。

ペースが上がる修司に合わせて、私は必死に付いて行く。


汗が流れても、息が切れたって、あなたを追いかけることがとても幸せだと感じてしまうから。




家に戻った私は、再び毛糸を手に持った。


青と水色の手袋。修司はどんな顔をするだろうか。きっと驚くよね。


もしも困ったような顔をしたなら、毛糸が余ったからだと嘘をつこう。



もしも嬉しそうに顔を綻ばせたら……、好きだと伝えよう。