「何かお悩みですか?」
背中から優しい声と共に、コーヒーが僕のデスクに届く。
「お手伝いしますよ」
その声と上品な蘭の香りで木之内さんとわかった。
「ありがとう。でも仕事じゃないんだ」
何気なしに言った言葉に、木之内さんは食い付いた。
「亀山さんのプライベートな悩みなんて、かなり貴重です。こっそり教えて下さい」
楽しそうな声だね。
最初のギスギス感はどこへやら
もうすっかり
この課と仕事に慣れた木之内さん。
「言えない」
僕はやっと顔を上げて彼女を見る。
柔らかそうな長い髪を今日はまとめ、白いシャツが良く似合ってる。
綺麗な人は何を着ても綺麗だな。
「木之内さん」
「はい」
彼女は真面目な顔をして、僕の悩みを聞く姿勢を取る。
最終面接の顔ってこんな感じだったのかな。
「好きな人に好きな相手がいるって、どうすりゃいいんだろうね」
中学生よりまだひどい27歳の男。
こんな職場で
周りが仕事で忙しいのに
木之内さんにポロリと胸の内が出てしまった。
しかも
こんな僕を『好き』って言ってくれた完璧美女にこんな話をするなんて。
僕は本当に最低かもしれないけど
人を好きになる気持ちを知ってる
木之内さんに聞いてみたかった。
スズメに知れたら怒鳴られるだろう。
まだスズメは木之内さんと僕をつがいにしたいのだから。