「ご主人様」
僕の腕の中で、彼女の泣き顔は笑顔に変わる。
コロコロ変わる表情が楽しすぎて
ついつられて笑ってしまうと、スズメは本当に嬉しそうな顔になる。
本当にズルいよ。
その笑顔に僕は勝てない。
「あと一ヶ月で、幸せになりましょうね」
「うーん。そうだね」
「木之内さんはまだご主人様の事が好きです、あと一歩押しましょう。飛びましょう」
飛ぶ……とは?
「ご主人様はヘタレだから心配なんです」
「鋭いとこ突くね」
「真実です」
本当に鋭いわ。
スズメは僕の腕からスルッと抜け出し「朝ご飯というのかブランチですね。フレンチトーストなんていいですね」って、いつもの調子に戻り冷蔵庫の扉を開く。
「いいね」
僕もいつもの調子に戻り、彼女から離れて朝刊を取りに行く。
ベランダで5、6匹の雀が手すりに並び、こちらを見ている。
この中に彼女の婚約者もいるのだろうか。
気のせいが目線が冷たく怖い。
僕は知らん顔でベランダから目をそらす。
うん。へタレです。
そう
とってもへタレな僕。
もう一歩。あと一歩足りない。
あと少し踏み込んでいたら
そう思うと
自分が情けなくて悔しくて腹立たしくて
泣きたくなる。