スズメは頭を下げたまま
小さく「あの人は運命の人なんです」って返事する。
運命の人
彼女の口から聞くと
なぜだろう
心が痛んでズキズキする。
そうか。婚約者はスズメを信頼してるんだね。
きっと器が大きくて
スズメのわがままを聞いてくれる
愛情の深い優しい人なんだろう。
本当はそんな婚約者がいるのなら、早く追い出して彼の元へ届けたいのだけれど
スズメの意志は固すぎる。
「ここに居ていいよ」
あきらめたように僕は彼女に言うと、スズメは頭を上げて涙目で僕を見上げた。
「そのかわり、あと一ヶ月だよ」
「ありがとうございます」
スズメは僕の胸に飛び込んだ。
「婚約者に怒られる」
小さな身体を受け止めながら僕が言うと、スズメは本当に嬉しそうに「ありがとうございます」ってギューっと抱きつく。
感情豊かな彼女が、可愛くて愛しくて
僕も彼女をギュッと抱きしめたかった。
そのくらい大切な存在になっているのに
僕の両手はダラリと下がったまま
彼女の背に回る事はない。
この一ヶ月で
きちんと僕は
彼女にお別れができるだろうか。