この穏やかな空気のまま
スズメを送り出したい。
「僕が途中まで送るよ。家は遠いの?」
「裏のマンションの電線の上が家です」
電線って……しかも裏って近すぎ。
「あと一ヶ月、時間があります」
背筋を伸ばし
強気でスズメは僕に言う。
「もうダメ。婚約者がいるのに、他の男と住んではいけない」
「三ヶ月間の自由をもらったんです。スズメはご主人様と一緒に過ごします。絶対帰りません。ご主人様を幸せにするんです」
「自分の婚約者が他の男と住むなんて考えられない。絶対ダメ」
「絶対イヤ!」
「ダメだ。出て行きなさい!」
売り言葉に買い言葉。
互いのテンションが悪い意味で上がりまくり、息を切らして僕は彼女を怒鳴っていた。
平和主義というのか
他人に無関心な僕が人に怒鳴るなんて
それも年下の女の子を怒鳴るなんて、信じられない。
スズメも同じ意見なのか
目を大きくして僕をジッと見てから、覚悟を決めたようにキッチンへとダッシュする。
え?玄関から出て行く……じゃなくて
キッチン?
「スズメはどこにも行きませんっ!」
小さな身体の女の子は、両手いっぱい広げ
冷蔵庫に抱きついた。
そこ?
そこが避難場所?