「昨日はありがとう」

泣くだけ泣いて疲れたのか
スズメは肩を落として
カフェオレを飲む。

「僕の話を聞いてくれてありがとう。優しい言葉をかけてくれてありがとう。かなり救われた」

子供に話すように
僕はゆっくりと優しくスズメに語る。

「おまじないが効いたのか、熟睡できた。ありがとう」

「いいんです。でも、お話を聞いた出来事は事故です。ご主人様は何も悪くありません」

窓から入る朝の光は柔らかく
スズメの声も落ち着いたようで
静かな部屋には穏やかな空気が流れていた。

「この二ヶ月で僕は変わった。人を思いやる気持ちや、自分から前向きになれた気がする。全部スズメおかげだよ。ありがとう」

僕が礼を言うと
スズメは首を横に振る。

「僕はもう幸せなんだ。生活に不自由はない。この二ヶ月間は美味しい食事を食べて、家の事も全部綺麗にスズメがやってくれたから、仕事に専念できた。もうすごく楽しくて幸せだったよ。だから……」

彼女の肩がビクリと動く

「だからもういいよ。ありがとう。婚約者がいるのならこんな場所に居てはいけない。決まった相手がいるのに、別の男と過ごすなんて絶対ダメだよ」

僕がずっと傍に居て欲しいと思っても
婚約者がいるなら
それは許されない話。

「二ヶ月間本当にありがとう。少しだけれど、お世話になったからバイト代だと思って受け取って欲しい。スズメが荷物をまとめている間に用意するからね。流しそうめんマシンも持って行くのだろう。重いから送ってあげようか」