どうしてだろうね
もう昔々の出来事なのに
まだ涙が溢れてくる。
「居眠り運転のトラックが突っ込んで来て、うちの車は上り坂のガードレールを飛び出して落下した。衝撃しかなかった。いつも運転上手な父がトラックを避けれなくて、きっと疲れていたんだね。僕は車に乗ったまま洗濯機に入れられたような、グルグルと内臓が飛び出すぐらいに回って回って……気付けば全てが終わってた」
父と母と兄は亡くなり
僕だけが助かった。
「僕がわがままを言わなかったら、あの時まっすぐ帰ってたら、こんな事にならなかった。全部僕が悪い。僕が家族を殺した」
スズメの手が僕の髪を優しく撫でる。
失った母親のような愛しさを感じた。
こんな夜中
素性も知らない年下の女の子に、過去を語る僕。
今までずっと
誰にも話した事がないのに。
「家族の夢を良く見るんだ。僕にさよならを言って、僕だけを残して去ってしまう夢をね。きっと家族は僕を恨んでる。僕だけが助かってしまった。事故の原因を作った僕が生き残った」
「ご主人様」
スズメの涙声に気付いて、一瞬我に返る。
ごめん。
変な話を聞かせてしまった。
「もう大丈夫。ごめんね起こして、もう大丈夫だから寝ていいよ。明日は土曜日でスズメも休みだし、僕も休日出勤は午後からにする。朝食とかいいからゆっくり寝て……」
「ご主人様は悪くないです」
繋がれた手をまた強く握り、スズメは怒ったようにそう言った。
はっきりとした強い口調に、心が少し温かくなる。