その夜。
自分の家なのに僕は寝室に閉じこもり
逆に彼女は
扉の向こうで鼻歌など歌いながら台所で洗い残した食器を洗ったり、シャワーを使ったりしていた。

僕は怯えながら部屋にこもる。

くつろいでるのは彼女の方。

誰の家なんだろ。

ちょっと不満に思いながら、僕は小さなデスクにパソコンを設置し電源を入れてデスクトップのアイコンをクリックする。

今月末に締め切りがある公募小説の原稿がそこにあった。

あとは読み直して応募するだけ。

昔から空想するのが大好きで
小説家が僕の夢。
だけど夢だけじゃ食べていけない。
世話になった叔父夫婦の為にも心配かけちゃいけないと、普通に大学を出て普通に就職活動をした。

予想外だったのは
就職先が有名な製薬会社で、そこのマーケティング部に配属された事。

草食系で大人しい僕。

就職難のこの時代
どこかの中小企業に引っ掛かり、パソコン相手に仕事でもできれば……って思っていたら大手企業に引っ掛かり合格。

グイグイ突っ走る俺様体質とは正反対のこの僕が、なぜか我が社で一番人気の部署に配属されてもう5年目。

仕事は忙しいけど毎日が単調。

彼女もいたり、いなかったり。

部屋を出て冷蔵庫から炭酸を取り出したいけど、居間にまだ彼女の気配を感じるからあきらめる。

人工的なパソコンの光の中に浮かび上がるファンタジー小説。

龍使いの女の子の成長物語。

公募はもう何度目だろう。
最終選考にはまだ残った事がない。
いつも二次止まりで終わる。

今度こそ
最終まで残りたい。