「小学6年の夏休み。僕は家族で祖母の家に行ったんだ。両親と二つ上の兄と一緒にね。自然がいっぱいで食べ物も美味しくてとても楽しかった」
今でも浮かぶ
空の青さと蝉の声
両親と兄の笑顔。
「その帰り道。もう遅くなって運転手の父親は疲れていた。でも疲れた様子は見せずに車の中で楽しく会話をしていて、蛍の話になったんだ」
「ホタルですか?」
「うん。その日は雨上がりで湿度が高くてね、風もなく絶好の蛍観察の夜で、僕は蛍を見た事がなくて父親に話を聞いて、どうしても見たくて見たくて無理を言った『蛍を見たい』って。兄は大反対したよ、早く家に帰ってゲームしたいって騒いでた」
全ては僕のわがまま。
「車の後部座席で兄とケンカしてたら、父が『ちょっとだけだよ』って車のハンドルを切って、いつも右に行く道を左に進んだ」
父は長距離運転で疲れてるのに
僕の為に無理をした。
僕が言いださなかったら
あの時
右に進んでいたら。
「僕は嬉しくて大喜び。兄は面白くない顔をして僕の頭を叩く。母は後ろを向いて『こらっ』って怒って、父は笑ってた。その次の瞬間に……」
全てが壊れた。