「宏斗」
母が僕の名前を優しく呼んでいた。
僕が母を見ると
母は寂しそうに笑って涙を流し「さよなら」って言いながら
母も同じく
コタツに飲み込まれる。
僕だけ残ってる。
僕だけコタツに入れない。
僕は「お母さん」って叫びながらコタツの中にもぐり込む。
お母さん。お父さん。お兄ちゃん。
僕を置いていかないで
ひとりにしないで
僕も連れて行って
ひとりは嫌だ。
お母さん。大好きなお母さん。
僕をひとりにしないで
コタツは僕を飲み込んでくれない。
どんなに泣いても叫んでも
家族の元へと連れて行ってくれない。
それが僕への罰なのだろう。
ひとりは嫌だ。
お母さん。お父さん。お兄ちゃん。
もぐり込んだコタツの中で僕はもがいている。
僕も連れて行け
家族の元へ連れて行け。
もがいても
もがいても
どんなに苦しんでも
僕は家族の元へ行けない。
もがけばもがくほど遠くなる。