「ごめん嘘。何もないよ。マンションのコンシェルジュさんと一緒に部屋まで送ったけど、部屋には入ってないから大丈夫」
「……そうなんですか?」
ゆうらりと木之内さんは幽霊のように立ち上がる。
あれ?何か怒ってる?
「うん。大丈夫、何もなかった」
「……そうですか」
表情も無く彼女は声を出す。
「わかりました。私は魅力がないんですよね」
「ん?」
何か話がズレてるような。
「浮かれた私が悪かったんです」
「木之内さん」
「私は……亀山さんが好きなんです」
綺麗な彼女の瞳が潤んでる。
「でも封印します。昨日はごちそうさまでした」
ペコリと頭を下げ
木之内さんは僕の前から去ってしまった。
中岡なら
『追いかけろ』って言うだろう
スズメなら
『木之内さんの方がよっぽど男らしい』って言うだろう。
情けない僕は何もできず
しばらく
堅い会議室の椅子に座って
呆然とするだけだった。