夜の8時
僕と木之内さんは一緒に会社を出て15分ほど歩き、オフィスビルの地下にある穴場的な料理店に入り込んだ。
そんなに大きな店ではないけれど
店内の壁にはポップなサボテンが描かれていて
全体的に明るくオレンジカラーを基調とした
元気をもらえるお店だった。
「素敵なお店を知ってるんですね」
ワクワクした表情で全体を見渡し、テーブルの上にある小さなサボテンを見て「可愛い」って喜ぶ木之内さん。
「僕も初めてなんだ」
正直に言うと木之内さんは楽しそうに笑う。
「亀山さんって、すごく正直な方ですよね」
「え?」
「だって普通、男の人なら常連のふりして『そうだろう』って言いそうだから」
「中岡なら言いそう」
「わかります」
心地良いラテン音楽が流れる店で向かい合い、2人で笑う。
「僕がそれをやっても似合わないし、それより何を食べようか?お腹空いたでしょう。ごめんね遅くなって」
僕は素直に頭を下げた。
『仕事が遅くなるかも』宣言をしてくれた木之内さんだったけど、本当に遅くなったのは僕の方。
急に仕事が入り
彼女を30分以上待たせてしまった。
「大丈夫です。こっちこそ……父がすいません」
苦い顔で彼女も頭を下げる。
彼女の父親である我が社の社長。
僕達が丁度ツーショットで会社を出た所で、偶然にも社長と遭遇。
『僕は彼女の父親として聞くけれど、君は僕の娘と付き合ってるのかい?』
会社のトップに聞かれて、僕の身体は固まった。
『パパ!』
木之内さんは鋭い声を出し、固まった身体を溶かしてくれた。
陰陽師みたい。