そっとノックをすると
木之内さんは背筋を伸ばして身構えた。
「お食事中だった?」
僕が静かに聞くと
木之内さんは仕事モードのキツい顔で僕を見上げる。
資料室の小さな机の上にクロスを広げ
コンビニのパンとおにぎりが転がっている。
「何か用でしょうか?」
慌てて広がっているクロスでパンとおにぎりを隠したつもりだけれど、しっかり見えてるよ。
完璧に見えるけど
本当は違うかも。
「こんな場所で食べてるの?」
「どこで食べようと自由です」
強気で返された。
たしかにそうだけどさ。
こんな窓もない湿気のある場所で、ひとりで食べなくても……
「社食行かない?安くて美味しいよ」
「いいんです。私は嫌われてますから」
自覚あるのか。それはそれでマズいのでは。
「いいから行こう」
僕は無意識に彼女の腕を取る。
「離して下さい」
「一回行こう。それで自分に合わなかったらもう誘わない」
僕が強気で言うと彼女は黙る。
「……それは先輩命令ですか?」
ブツブツと文句を言うように彼女が言うので、僕は笑って「そうだよ。命令」って答えた。