「いや、僕は何もしてないよ」
猫はいたかもしれないけれど、雀の存在は気付かなかった。
遅刻するって焦ってたし
ただゴミを捨てる事に集中してただけで。
「亀山さんが猫を追い払い、ネットを動かしてくれたから私の足も解放されてまた飛び立つことができました」
「僕はただ……」
「命の恩人です」
泣いてるし……感動して泣いてるし。目の前で泣く女の子。
しかも正体は雀。
ないない。絶対ない!
「では百歩譲ったとして、雀さん」
「はいっ!」
「僕に会ってどうしたいの?お礼を言いに来たの?」
「半分正解です」
彼女は目をゴシゴシと拭き、背筋を伸ばして僕を見る。
「私は命を救っていただいたお礼を言い、亀山さんに恩返しに来たんです」
「恩返し?」
恩返しはツルだよね。
「これから三ヶ月間。私は亀山さんと過ごして亀山さんを幸せにします」
「僕を幸せに?」意味不明。
「はい。お世話いたします。よろしくお願いいたします」
テーブルにおでこをゴッツンさせて彼女は頭を下げた。
いやいや。無理無理。
「ここに住むの?三ヶ月間一緒に住んで僕を幸せにする?」
「はい。それが大正解です」
大正解って
そんな正解いらない。不正解でいい。
「無茶言わないで欲しい。若い女の子が見知らぬ男のアパートに上がり込み、一緒に住むなんてありえない。僕は君をしらないし……」
「だからゴミ捨て場で助けられた雀です」
「雀でもツルでもいいから、早く出て行きなさい。家に帰りなさい」
冗談でもキツすぎる。
「亀山さん」
女の子はまた潤んだ目で僕を見つめる。
「私……帰る家がないんです。どこにも行く場所がないんです」
ポロリと雀の涙が流れていた。
つまり
家出娘か?