「私は一生懸命頑張らなきゃいけないんです。社長の娘だからって色メガネで見られるのはもう嫌なんです」
「木之内さんは頑張ってるよ」
「でも実力不足です。今だって、一生懸命完璧に作ったプランがこんなにダメなもので皆さんにひどい事を沢山言われてしまいました」
そしてまた泣く。
女の子の涙って最強の武器だ。こっちは何も言えなくなってしまう。
「父と兄に認められたいんです。結果を出さないと『ほら仕事なんて簡単なものじゃない。早く結婚しろ』って言われてしまう」
僕がハンカチを差し出すと、木之内さんは遠慮なくひったくり目を押さえた。
「木之内さんは頑張ってるよ。頑張りすぎてガードが堅いけど」
そう言うと少し大人しくなり震えが止まる。
「仕事って自分だけでするものじゃないんだ。他の人の意見に耳を傾けて最善の環境を作り出さなきゃ、いい仕事はできないよ」
「……はい」蚊の鳴くような返事が微かに聞こえた。
「木之内さんなら大丈夫。けっこういいアイデア持ってるよね、しっかり調べてるし。これなんてさ……」
彼女の隣に座り
彼女が作った資料を探していたら
身体に衝撃を受け
甘い花の香りが僕に届く。
気品のある蘭の香りに似ている。
彼女は僕に抱きつき泣いていた。
回転椅子から飛び出して、しっかり僕の胸に飛び込み泣いていた。
どっ…どうしよう。
僕はオロオロと困りながらも、誰か入ってきたらどうしようって半分開いている扉を見ると
黒く丸い目が僕を見ていた。
水色の作業服を着てモップを持ったズズメが開いている扉の向こうに立っていて、僕に向かって『ぐっじょぶ』と声に出さずに口を開き、ニヤリと笑って目を細くして扉を閉めた。
グッジョブ?
おいっ!スズメっ!!