「ここに来る前ね、出版社から電話が来た」
「えっ?」
「僕の作品が大賞を取った。書籍化される」
「ごしゅじんさまぁ」
勢いよく鈴芽は僕に飛びつき
僕達はバランスを崩して砂浜の上に寝転んだ。
「鈴芽の言った通りです。絶対大賞を取ると思ってました」
「いや運が良かっただけ。たまたまで……」
「おめでとうございます」
ギュッと抱きつく彼女が恋しくてたまらない。
もう絶対離さない。
この小さな女の子は僕の全て
誰にも渡さない。
「賞金が出るんだ」
「はい?」
「一千万円」
「え?」
鈴芽の声が裏返る。
「現金にして、叩きつけてやろう」
「だっ……ダメですよ。そんな大金を鈴芽の為に使うなんてダメです。絶対ダメです」
鈴芽は起き上がり
必死で首を横に振るけど
僕はそんな彼女の肩をつかんで真面目な顔で話をする。
「それで鈴芽が自由になるなら安いものさ。一筆書いてもらって契約書にしよう。形に残さなければ意味がないから」
「でも、性格が悪くてガメツイ人達だから……」
「話を聞いた限りでは、相手の立場は弱いよ。報酬無しで働かせて営業停止になってもいいぐらいだ。『出るとこ出てはっきりさせましょう』って言えば大丈夫」
「ご主人様」
「さぁ行こう」
夕陽を背中に僕は立ち上がり
鈴芽の手を引く。
「何も問題はない。もう大丈夫」
そう言うと
スズメは涙を拭いてうなずいた。