夕陽が落ちてきた。

波の音が心地良い。
クシャミをする鈴芽の肩を抱き直し
そっと彼女の柔らかい髪に指を入れる。

「裏のマンションに行って、電線の上の雀をずーっと見てた」
僕がそう言うと鈴芽は微笑む。

「あの中にいるのかなーって、真剣に見てた」

「ご主人様ウケる」

「言うなよ」
僕は懐かしい鈴芽の笑顔に、本当は泣きそうだった。
三ヶ月も一緒に暮らすと、すぐ泣く性格まで似るのかな。

「ご主人様の家族を……私の父親が壊しました」

「鈴芽は悪くないよ」

「でも……」

震える肩を強く抱く。

誰も悪くない。
もう終わらさなければ
いけない話。

「あの歌を教えたのは、僕なんだね」

「そうです。ご主人様から教えてもらいました」

「病院の屋上で練習したっけ」

「思い出したんですか?」

「全部思い出したよ」

母親からの愛情をもらえない
小さな可愛い女の子。

僕の寂しい入院生活で、彼女はどれだけ元気をくれただろう。

「僕が母親から教えてもらった、大切な歌。思い出させてくれてありがとう」

僕が礼を言うと
鈴芽は何度も小さくうなずいて、胸に抱いた二匹のぬいぐるみに視線を落とす。