私の作る料理が評判になっている……らしい。
【雀御膳】と名前を付けられ
口コミで広がり宿もにぎわう。
ケチなオーナー母子が儲けたお金で旅行に行ってる間、私は調理場に無理を言って半日の休みをもらい、おばあさんからもらった名刺を元にお兄ちゃんの会社へ行く。
お兄ちゃんの会社は大きかった。
会社に入って呼び出してもらう……度胸はないので、ひたすら出て来るのを待つしかない。
会社の前に小さなカフェがあったので、カフェオレ一杯でひたすら粘り、そこの窓辺でひたすら待つ。
裏口から出たらどうしよう。
他の出口から出たらどうしよう。
陽が落ち
沢山のスーツ姿の人達が横切って行く。
時間だけが過ぎて、もう八時を過ぎている。
見逃したかもしれない。
もう十年以上会ってないし
都会は人がいっぱいで、会社から出る人もいっぱいで
どうしよう。
本数の少ない田舎路線のバスなので、帰れなくなる。
しかたない
今日は一度あきらめて
また別の日に出直そう……と、思ったら
背の高い
紺色のスーツを着た男性が、足早に歩いていた。
少し猫背で長い手足
大人になった宏斗お兄ちゃん。
でも
その優しい顔は昔のままで、すぐわかった。
「見つけた」
私は目に涙を浮かべ店を飛び出し
こっそりお兄ちゃんの後をつける。