「スズメ。今までありがとう」
「ご主人様」
あらたまった僕の表情に、彼女もスプーンを置いて姿勢を正した。
「婚約者がいるのに、三ヶ月も一緒に過ごしてくれてありがとう。お弁当も美味しかった」
「いえ、スズメの力不足で、ご主人様をつがいにできなかったのが心残りです」
「でも幸せだったよ」
スズメと一緒に暮らして幸せだった。
「これ……気持ちだけど」
僕は用意していた水色の箱をスズメの目の前に渡した。
「スズメにですか?」
「うん。気に入らなかったら売っていいから」
スズメはおずおずと水色の箱を手にして
白いサテンのリボンを外す。
そこには小さな巾着に入った
超シンプルな一粒ダイヤのネックレス。
「もらえません。木之内さんにあげて下さい。こんな高価な品物もらえません」
すぐに箱を閉じて僕に返すけど
僕はそのままスズメに押し付ける。
「もらってくれなかったら、近くのゴミ箱に捨てるけどいい?」
「ダメです」
「では受け取って」
本当は現金を用意しようと思ったけれど
絶対受け取らないからこっちにした。
「ありがとうございます」
スズメは涙目でもう一度箱を開き、何度も声を上げていた。
時間が止まればいいのに
現実主義者の僕がこんな風に思うなんて
とっても重症。
自分の事ながら
スズメが居なくなった後
大丈夫なのかと本気で心配してしまう。