宗教の勧誘かと思った。
それくらい
彼女の笑みは邪心がなく
丸い目は大きく輝いていたのだから。
「えーっと……間に合ってます」
開けてしまった扉を後悔しながら閉めようとすると、悪質セールスのように素早く足を入れエヘヘと笑う。
怖いかも。
危ないかも。
水曜日の夜8時。
仕事を終えてシャワーを浴びて
缶ビールのプルタブに手をかけた幸せな瞬間だったのに、僕は何か間違ってしまった予感。
「亀山 宏斗(かめやま ひろと)さんですよね」
「そうです」
大きなリュックを背負い必死で家の中にもぐりこもうとする小柄な女の子に対し、僕も必死で彼女を押し出そうと頑張っていた。
コントのようなこの動き。
新手のセールス?
「私です。私!」
「私って誰ですか?警察呼びますよ」
「だから私なんです」
「ワタシワタシ詐欺?」
「スズメですっ!」
「いや、貴女は人間でしょう」
「オバタ スズメですっ!亀山さんに会いに来ました」
おばた すずめ?
誰だろう。
考えてると僕の手は緩み
女の子はその隙を狙って素早く玄関に滑り込む。
そして勝手に鍵をかけていた。
「あ……」
「世の中物騒ですからね。鍵はかけましょう」
いや
貴女が物騒なんですが……。
アゼンとする僕に向かい
彼女はあらためて頭を下げる。
「スズメです。亀山さんに恩を返しに来ました」
最近になって聞いた事のないような大きく元気な声。
僕はただ圧倒されて
ワケわかりません状態になる。