「こ、れ……?」
「ずっとここに飾ってある写真でさ。前に深津先生に『家族との思い出?』って聞いたら、『唯一の、な』って、少し悲しそうに言ってた」
少し色あせたその写真たてを手に取る私に、新太は言葉を続ける。
「『家族のために働いてきて、でも気付けばそればかりでなにも思い出を作ってやれなかった』って言ってて。きっと後悔してるんだろうなって、思ったよ」
『後悔』、そのひと言が胸にずしりと沈んだ。
後悔……なんて。お父さんも、家族としての時間をもっと抱きたいと思ってくれていたのかな。
初めて触れるその心の内に、戸惑い、躊躇い、けど次第に、泣いてしまいそうなあたたかさのような、嬉しさのような感情が込み上げてくる。
……私、ちゃんと今でも覚えてるよ。
あの日、3人で海に行った日のこと。
痛いくらいの日差しの下、入った海の冷たさが気持ちよかったこと。
私が買ってもらったかき氷を砂浜に落としてしまって、泣いて、お母さんが自分の分をわけてくれたこと。
お父さんが肩車で海に入ってくれて、その時見た景色は、果て無く青色が続いていたこと。
帰りの車の中で、ふたりがあの歌を歌ってくれて、幸せな1日だと心から思ったこと。
今でもちゃんと、覚えてる。