「つーきーが、のぼるーし、日がしーずーむー」
「え?」
突然聞こえた歌声に振り向くと、そこには、白いスーパーのレジ袋を右手にさげた新太がいた。
突然のその姿に少し驚いて見ると、新太はへへっと笑ってこちらへと近づく。
「新太……早いね」
「うん、ちょっと買い物行ってただけだから」
言いながら新太が見せたその袋の中には、じゃがいもや人参が透けて見えた。
買い物、と言っても服や本などではなく、夕飯の買い物だったのだろう。
「この時期の海はもう冷たいから、入っちゃダメだよ。風邪ひいちゃう」
「……見た感じでわかる」
ぼそ、とそっけなく答える私の態度に対して、その顔は心なしか嬉しそうに笑う。
「なに?ヘラヘラして……気味悪い」
「気味悪い!?」
辛辣な私の言葉はその胸にグサッと刺さったようで、新太は衝撃を受けるとともに、心が折れたかのようにその場にしゃがみ込む。
あ、いじけた。
本当この人、年上っぽくないっていうか、変なところが子供っていうか……。
そんな新太に近づくと、視線を合わせるように、私もその場にしゃがみ込んだ。
「気味悪いって……ひどい……女子高生怖い……」
「はいはい、ごめんって」
「心がこもってなーい!」
口を尖らせ拗ねる新太と、あしらう私。
どちらが年上かわからない、そんな会話の合間にもザザン……と音を立て寄せる波は、私たちに届くことなく静かに引き返していく。