しばらく遊んでいるうちにトラは眠り、手のあいた私は、縁側に座って少し遅い昼食を食べながら庭を見つめていた。
今朝もラジオ体操をしたその庭は、よくよく見れば鉢や小さな家庭菜園の跡があるものの、放置されたままなのか枯れてしまっている。
……新太のおじいちゃんがやってたのかな。
だとしたら、自分がいなくなったあとのこの枯れた庭を見て、少し悲しい気分になるかもしれない。
なんて、会ったこともない人の気持ちを考えてちょっと切ない。
けど新太も忙しくて、庭までは手が回らないんだろう。だからと言って自分にできることなんてなにひとつないけれど。
そう考えながら、お皿の上をからにした。
「……ごちそうさま、でした」
誰に聞こえるわけでもないけれど、小さく呟く。
ふわ、と吹く風はやはり冷たく、もう冬なんだと感じた。
すると、不意に漂ったのは潮の香り。
同時に少し遠くからは、ザザ……ン、と波の音が聞こえる。
「海……」
海の香りは来た時からしていたけれど、音もするってことは思ったより近くに海があるのかもしれない。
思えばここにきて一度も外に出ていないから、この家の位置すらもよくわからないんだ。
……ちょっと、行ってみようかな。海なんて、めったに来ることもないし。
そんな小さな好奇心から、波の音に誘われるように、『早坂』と書かれた家を出た。