「……トラ」
その場にしゃがんで名前を呼ぶと、トラは私の前に来る。そして、『なでて』というように私に頭を差し出した。
そっと手を伸ばし、ふわふわの額を軽く撫でると、トラは気持ちよさそうに目を細める。
か、かわいい……。
そのまま指を喉へ運ぶと、更に嬉しそうにトラはゴロゴロと鳴く。
「気持ちよさそうだね、おまえ」
『ニャァ~』
「あはは、会話してるみたい」
自然と笑い声をこぼして、自分でもちょっと驚く。
自分もこんな風に笑えるんだって、思い出した気がした。
口元が、目元がゆるむ、懐かしい感覚。
猫相手にこんなに心が穏やかになるなんて、どうしてだろう。
不思議なような、だけど、幸せな気持ちだ。