『俺とこの子のひとりと一匹暮らしだから、なにも気にしなくていいからね』
新太はそう言っていたけれど……こんな大きな家にひとり暮らしなんて、あの人本当に何者?
見た目はまだ大学生くらいだから、どう見ても一軒家を持てる経済力があるようには見えないんだけど。
仮にお金持ちの家の息子だとしても、わざわざこんな古そうな家にひとりで住む?
考えれば考えるほど謎は深まるばかり。「うーん」と考えていると、唐突にふすまがガラッと開けられた。
「なぎさおはよー……って、あ。起きてた?」
そこから顔を見せた新太は、昨夜と変わらない笑顔を見せる。
明るいところで見るその顔は、ふわふわな茶色い髪と、丸い瞳に小さな顔、通った鼻、と昨夜よりいっそうはっきりと『かっこいい』という印象を感じさせた。
……けど。
「……女子の部屋を勝手に開けないでよ」
デリカシーのないその行動に対し、眉間にシワを寄せ、怪訝な顔で言う。
けれど新太は意味が分からなそうに笑顔のまま首をかしげた。
「え?ダメ?」
「ダメ。デリカシーなさすぎ。気持ち悪い」
「気持ち悪い!?」
普通開ける前にノックくらいすると思う。
『気持ち悪い』と辛辣に言う私に、新太はしゅん、としょげる。かと思えば、一瞬で表情を変えてハッと思い出したように顔を上げた。
「あっ、そうそう!俺はなぎさに罵られるために起こしにきたわけじゃないんだった!」
「は?なに……」
「はい、起きて起きて!こっち来て!」
しょげたり張り切ったり、忙しい人だな……。
黒いジャージ姿の新太は、まだ寝起き間もない私の腕を引っ張り、無理矢理立ち上がらせると、ぐいぐいと勢いよく私を連れて行く。