『いいか、新太。新太が高校に行きたくなくて働くならかまわん。けどな、金のことを気にして躊躇ってるなら、そんなの余計な心配だぞ』

『けど……いいの?』

『もちろん。じいちゃん、家はボロいけど金は結構貯えてるんだぞ!』



そう、背中を押してくれたから。

今はその優しさに甘えて、これから返していこうと決めたんだ。



じいちゃんとの生活は、楽しかった。

朝はラジオ体操から始まって、一緒に朝食を取った。それから学校に行って、バイトもして、空いた時間には『男も台所に立てなければ』と料理を教えてくれた。



家庭菜園が趣味だったじいちゃんの家の庭はいつも花や野菜で埋め尽くされていて、きれいな緑色だった。

そのうちじいちゃんが近所の人からトラを貰ってきて、この家での生活はふたりと一匹になった。



にぎやかであたたかな毎日。そんな日々を過ごしていたある日、高校2年の夏のことだった。



『サッカーブラジル代表、アレックス選手が昨夜亡くなりました。自殺とみられており……』



ニュース番組で報道されたその訃報に、驚き耳を疑った。



もうすっかりサッカーから離れてしまっていたけど、この胸の中ではヒーローのままだったアレックス。

彼は不慮の事故で右足に大きなケガを負い、現役引退をよぎなくされた。そのニュースから1ヶ月ほどで流れてきたのが、自殺の一報だった。



『サッカーが出来なくなった時点で俺は死んだも同然だ』、遺書にはそう書かれていたのだという。

……けど、だからって本当に死んでしまうなんて。