「君、名前は?」
「……なぎさ。深津、なぎさ」
「なぎさ、ね。俺は早坂新太。よろしくね」
新太、そう名乗った彼は少し歩いてきた先に停めてあったバイクの前で足を止めた。
「じゃ、後ろの席どうぞ」
シートの中からヘルメットをひとつ取り出すと、私に差し出す。
それを不慣れな手つきでかぶる私を見ると、ハンドル部分に置いてあった自分の分のヘルメットを彼も同様にかぶる。
そしてパーカーの中に身につけていたらしい猫用の抱っこひものようなものに猫をしまうと、「大人しくしてろよ」と優しく声をかけた。
慣れた様子でバイクにまたがる彼に、続いて私も彼の後ろにまたがる。
「バイク乗るの初めて?」
「……う、うん」
「そっか。最初はちょっと怖いかもしれないけど、すぐだから我慢しててね。あ、運転中は俺に掴まってて」
掴まってて、なんて言われても……。
恐らく年上の、しかも異性に触れる。これまで経験したことのないことに、最初は遠慮がちに彼のパーカーを小さく握った。
彼はそんな私の手を掴むと、しっかりと腰に抱きつかせるように腕を回させた。
「しっかり掴まらないと落ちちゃうから」
「……は、はい」
さっきまで普通に話していたのに、なぜかいきなり敬語になってしまう私が少しおかしかったのだろう。
彼からは「ふっ」と小さな笑い声が聞こえた。
笑われたことに、自分がひどく子供に感じられる。恥ずかしくて半ばやけになってその腰にぎゅっとしがみつくと、ゆっくりとバイクは走り出した。