「なぎさが事故に遭って、お母さん本当に後悔した。だから……なぎさが目覚めたら絶対言おうって思ってた言葉があるの」

「え……?」



言おうと思っていた言葉……?

それって、と聞こうとした私に、お母さんは突然私の顔を両手でがしっと掴んで、一瞬躊躇う。

けれど勇気を振り絞るように口をひらき、まっすぐに目を見て言った。



「……ごめんね、なぎさ」

「え……?」



『ごめん』、それは、予想もしなかったひと言。



「お母さんもお父さんも、なぎさに甘えてた。仕事なら仕方ないって納得してくれるだろうとか、しっかりしてる子だから大丈夫だろうとか、勝手に思って甘えてたの」



続いてお母さんからこぼされるのは、初めて知るその胸の内の本音。



「だけど、そんなわけないよね。しっかりしてるんじゃなくて、しっかりした子でいてくれてたんだよね」

「お母さん……」

「だからこそ、あの日からなぎさにどう接していいかがわからなかった。自分の言葉がなぎさを傷つけるかもしれないって、そう思ったら怖かった」



お母さんも、悩んでいたんだ。

ただ逃げていたんじゃなくて、考えて考えて、苦しんでいた。



「事故に遭った日も、今日こそはなぎさと向き合って話そうって思ってて……だけど、言えなくて」



私のことを思って、苦しんで、向き合おうとしてくれていた。

なにも知らないくせにって、そう思っていた自分が恥ずかしい。

なにも知らないのは、私の方だったんだ。