「準備は、もう終わった?」
しん、と。
食卓が一瞬、静かになった気がした。
「……あー、うん」
ぐるぐる、ぐるぐる。
納豆を混ぜる箸を止めずに頷く。
「そっかー、ありがとー」
「……別に」
呟くと、父親は少し眉を下げて笑った。
その笑みが何故か少し悲しそうに見えたから、すぐに顔を背けて見なかったことにした。
もともと、そんなに多くの荷物を持って来たわけではない。
段ボールの数は少なかった。
「あっ、もうこんな時間! 俊彦、朝ドラ始まる!」
「知らん」
「チャンネル替えてー!」
リモコンの奪い合いをしている二人をちらりと見て、また納豆を混ぜる。
いい歳して、何やってるんだか。
小さく溜め息を吐いて、NHKに切り替わったテレビをぼんやりと眺める。いつものテーマソングが流れ出す。
「……明日かー」
ぽつりと呟いた父親。
そんなに大きな声で言ったわけでもないのに、やけに響いたその声。
森ヶ山線の工事は終わったらしい。昨日から運行が再開しているそうだ。