あたしを安心させようとして、雅子先生は言ってくれているのかもしれないけど、具体的なことを聞くと余計に焦る。焦るけど、思い付かない。自分が何をしたいのか、よく分からなかった。
「ずっとこのままでは、いられやんのかなー……」
ぼんやりと口にした言葉。
「それは、ずっとこの町にいたいってこと? みんなと離れたくないってこと? それとも、中学生のままでいたいってこと?」
なんとなく出た言葉だったのに、雅子先生は真剣に聞き返してきた。
いつもとは違う様子に、少しびっくりしつつも、問いの答えを考える。
「……全部です」
「全部?」
「全部」
もう一度言って、頷く。
「この町が好きだし、みんなとも離れたくないし、大人になるのも、ちょっと嫌です」
しっかりと、雅子先生の目を見て言えた。お母さんはずっと黙ったままだ。
「それなら、あるよ」
「え?」
「みどりに打って付けの職業」
扇風機の風が前髪を揺らす。窓の外では、蝉が鳴いていた。
「中学校教師って、どう?」