そっか、と私はつぶやいた。


窓の外を流れる景色は、いつの間にか日が落ちて赤みを増していた。



焼け焦げたような夕焼け空。

激しい炎のように真っ赤な陽射しを受けて、ビルも家も、アスファルトもコンクリートも、煉瓦の小道も、店の看板も道路の標識も、街路樹も路傍の花も、なにもかもが赤く燃えている。


真っ赤な世界。


私は大きく目を見開き、瞬きすらせずに、赤に染まった世界をじっと見つめつづける。



しゃく、とリクが林檎を噛む軽やかな音が、耳朶をかすった。



そのとき、視界の端にちろりと動く黒い影が見えた気がした。


目を向けると、窓枠の線に沿うように、ひっそりと息をひそめる、一匹の黒い蛇がいた。



私は息をのんでその禍々しい生き物を見つめる。


黒い染みのような蛇は身じろぎ一つせず、ただ、真っ赤な舌をちろちろとうごめかしていた。



「もう、ここにはいられない。出ていかなくちゃいけない。知恵の実を、禁断の果実を食べてしまった罪深き人間は………」



リクがぼんやりとつぶやく。


黒蛇がにたりと笑った。



―――そうだよ、もうエデンにはいられない。お前たちは楽園から追い出されるのさ。知恵の樹の実を食べてしまったのだからね。



赤い糸のような舌が、ちろりとこちらに伸びてくる。



―――それでもお前たちは、禁断の果実を食べずにはいられないのだろう?

だって、その実は、震えがくるほどに甘くて美味しいのだから………。