「新っ、お願い」

「うわ、わ」



わ、と青空に浮かぶバレーボールを目で追いながら、うしろ向きに走った。

昼休みの日差しが、ボール越しに私を刺す。

目がくらんだ。



(南無三!)



目をつぶって、あてずっぽうに手をかざす。

よーし、という声が、クラスメイトたちからあがった。


見ればボールは無事に円陣の中に戻り、みんなの頭上で弾んでいる。



「伸二さん?」

「よくわかったな」



どこに向けたわけでもない呼びかけに、どこからともなく返事が来た。

そりゃわかる、だって私の指、ボールにさわってない。



「助かりました、ありがとう」



とたん、どさっと重たい音がして。

中庭の茂みに、死神が伸びていた。





「“ありがとう”だ」

「やめてくれ、耳鳴りがする」



伸二さんが渋い顔をした。

背後の校舎で、チャイムが午後の始業を告げる。


日陰のベンチで、紙パックのジュースを飲みながら、初めてこの死神に遭遇した時のことを思い出した。

そうだよ、あの時だって。

私は、ちょっとした親切のお返しに、お礼を言われたところだった。

そして伸二さんは、倒れてた。



「今まで気づかなかったんですか」

「言われることが、ないからな」

「お迎えありがとうって言ってくれるお年寄りとか、いそうじゃないですか…あ、すみません」



伸二さんが隣で、頭を抱えている。

まずい、うっかり口にするだけでも、効くのか。