「あっちゃん、こっち」
小さな駅舎を出ると、自転車を押した林太郎が迎えに来てくれていた。
海のそばだというから少しは涼しいかと思っていたけれど、実際たいして変わらない。
「迷わんかった?」
「子供じゃないんだから」
私の荷物をとりあげて、かごに入れると、うしろの荷台に乗るよう指さす。
「猪上さんに怒られるよー」
「どこに猪上さんがいるんよ」
ぷっと噴き出して、林太郎がこぎだした。
腰に両手を回すと、あれっと素っ頓狂な声があがる。
「前向いて座ってるん?」
「そうだけど」
「今日、スカートやなかった?」
「ワンピだよ」
「えーっ」
なんだよその非難めいた声。
スカートで脚開いて座っちゃいけないわけ。
「お母さんみたいなこと言わないでよ」
「わっ、嫌や、やめてや」
くすぐると、いい感じについた腹筋がぎゅっと反応するのを指先に感じた。
少しドキッとして、それが面白くて、何度もやった。
「まあ、遠いところ、よう来とっけたのぉ、くたびれたがの、上がんね、上がんね」
「お邪魔します」
10分くらい走った、通りから少し引っこんだところにある小ぢんまりした家の前で、おばさんが待っていてくれた。
元気そうな顔で、ほっとした。
夏休みに入る直前、村長は亡くなり、激震の走った村では、盛大な葬儀が執り行われた。
そこで10年ぶりくらいに、おばさんに会った。
相変わらず優しそうで、綺麗だったけれど、親族とのいざこざは避けられなかったらしく、疲れた顔をしていた。