──10って番号に当たったら、僕はトワと名乗るんだ。



楽しげな声が聞こえた。

そうか、と応えるのは、伸二さんだ。


永遠って意味、とトワは続けた。



『ヒトが欲しがってやまないものだ』

『そんなにいいものでもないのにね』

『知らなくていいことだ』



伸二さんの声は、優しかった。

目の奥が痛むほど白い空間で、それを聞いた。


やがて、燃え盛る炎と、何かがはぜる音が聞こえてきた。

見るともなく、景色が頭の中に流れこんでくる。


人波の中、走るふたりがいる。

浴衣姿の智弥子をかばいながら、手を引くのは遠藤くんだ。

火の手は彼らからずっと遠く、ふたりはこのまま無事に逃げて、緊張から解けたあとは、日常に戻るだろう。


消防車の進路を確保するため、人を整理しながら先導しているのは、猪上さんだ。

心の片隅で、奥さんを案じているのが感じられた。

大丈夫、おかみさんは安全なところにいるよ。

教えてあげられないのがもどかしい。


あっちゃん、と叫ぶ声がした。

ずいぶんと懐かしい響きに思えて、誰のことだっけ、なんて考えるうち、熱風に服を焦がされながら走る、林太郎の姿を見た。



「返事をしてやればよかったのに」



ふいに間近でそんな声がして、身体がどさりと、どこかに接地したのを感じる。

気づくと、白く淡く光る場所に、私は座りこんでいた。



「まだ間に合う、戻そうか」



私が頭を振ると、伸二さんは、何も言わずに微笑んだ。


ここはどこだろう。

広々とした空間なのに、声がまったく響かず、発したその場で散って消えていくような、不思議な閉塞感がある。


見たいと思った風景が、現れては消える。

すぐそこにあるのに、手を伸ばしてもさわれない、なんとももどかしい距離で。


林太郎が、必死に私を探しているのがわかった。

両腕で顔をかばいながら、炎の中を走っている。