気づくと部屋の中は、文字も読めないほど暗く、窓のサッシに伸二さんが腰かけていた。
学校に行く機会を、自分が永遠に失った実感が、じわりと押し寄せる。
昨日が最後だったのだ。
たぶん、どんなことでも、終わってみるまで、最後は最後と認識されないんだろう。
これが最後だとわかって何かに臨むことができたら、それは幸運なんだ。
「…嫌なもんですね」
「何がだ」
「続いてたことが、いきなり断ち切られるのがです」
外から入る、仄かな光が逆光になって、伸二さんの表情は見えない。
「たとえばね、私が何かしでかしたら、なんであんなことしたのって誰かが訊いてくれるわけです」
「うむ」
「すると私は、説明できるわけですよ、イライラしてたとか反省してるとか、でももう、そういうの、ないんです」
そうだな、と影がうなずいた。
「きっと新はこんな気持ちだったのねって推測されて、それが答えになっちゃうんです、私は弁解も言い訳もできない」
「それが、嫌か」
「嫌ですよ、もう誰にも、今以上に私のことをわかってもらうことは、できないんです」
これまでの私で、全部。
そんなつもりじゃなかったんだけど、なんてことがあっても、もう訂正もできない。
「ごめんとか、ありがとうも、言えないんです」
「きみの時間は限られており、きみもそれを知っている」
頭痛がするのか、片手でこめかみのあたりをもみながら、伸二さんが言った。
「時間は減るが、増えない、1分後には1分減っている」
「わかってます」
「そして、残りの量が最も多い瞬間は、常に、今だ」
畳に正座したまま、伸二さんを見あげた。
柱に背中を預け、窓枠に片足をかけたシルエットの中で、瞳がきらりと光った。